松本一彦会長インタビュー
■この難局を乗り越えよう
令和7年7月10日
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全国圧接業協同組合連合会 会長 松本 一彦 |
──まず、この5月で、全圧連の会長に就かれて1年が経ちました。この1年を振り返ってどのような1年であったかお聞かせ下さい。
松本 昨年5月30日の総会から会長の大役を仰せつかり、土井、足立両副会長をはじめとする関係者皆様のサポートを得ながらやってきた1年でした。
この間、不慣れながら業界の代表として、国交省の労務費基準策定ワーキンググループや日本鉄筋継手協会の理事出席など各関係団体の会合へ参加し、当組合業種の現状の説明や、要望等を発信してきました。
また、これまで支部の理事長も務めてきましたが、同業種というものの、やはり仕事のやり方にも地域性があります。従って、そうした地域性の違い、特徴の違いに耳を傾け、皆さんの意見を聞きながら、運営していくことを心掛けてきました。平素より組合活動にご理解、ご協力をいただいています理事及び会員企業の方々には改めて感謝申し上げます。
──さて、今回は5年周期で計画策定されているアクションプランで当連合会にとって極めて重要な「第8次構造改善計画」を中心に、お伺いをさせていただきます。まず、計画の前提である業界を取り巻く現状について、どのように捉えられているのかお聞かせください。
松本 第一に、少子高齢化が進む中、若年者の入職不足は他産業と比較しても慢性的かつ喫緊の課題であり、事業を継続するうえで最重要課題と捉えています。そうした中で、旧態依然の“きつい“汚い”“危険”のいわゆる3Kの職場環境では若者は入職せず、労務職である我々の業界は衰退の一途です。本気で事業を継続する覚悟があるならば、月給制度の導入や週休二日制、有給休暇取得など他産業では当たり前となっている処遇を改善する必要があります。そして、これまでのイメージを一新させ、“給与が高い”“休日が多い”“希望が持てる”“カッコイイ”、という建設業の新4Kを目指さなければなりません。
また、担い手不足により建設工法も変化し、プレキャスト工法や先組ユニット工法が増え、従来の重ね接手やガス圧接では施工できないケースもあり、溶接継手や機械式継手も施工できるスキームが求められています。目指すべき「顧客から信頼される技術集団」とは、顧客のニーズに応えられる技術力・機動力・提案力と品質の担保が不可欠な集団であり、そのためには情報の共有と技術の研鑽が裏付けされなければならないと思っています。
──基本方針では「challenge to change=変化するものが生き残る」というまさに構造的な改革を呼びかける方針が副題に示されました。いまの時代はそれだけ重要な転換点にあるということだと思います。現状について、業界ではその認識をどの程度認識していると感じておりますか。
松本 さきほど、地域性や工法の変化の話を少ししましたが、建設業全体のニーズとしてこれまでの圧接工法に留まらず、溶接や機械式といった幅広いニーズにも応えていかなければいけません。これは避けられない流れだと思います。つまり、総合鉄筋継手として対応できる体制にしていかなければならないということです。そこをしっかり認識し、取り組むことが極めて大事な局面であり、会員企業全体にその意識を高めていきたいと考えています。
──基本方針では直面する課題として大きく3つの課題を挙げております。それぞれについて、お聞かせください。
(1)特定技能外国人による担い手の確保について
松本 日本の若者が入職してこない現状下、技能実習生や特定外国人の活用は苦肉の策でありながら、持続的な事業経営には必要不可欠な手段だと思います。政府の方針では、2027年度より技能実習制度が廃止され、育成就労制度に移行することが予定されます。
具体的には、育成就労制度では基本的に3年間で人材を計画的に育成し特定技能へ移行させることが求められ、特定技能制度では特定の分野「介護・建設・農業・製造」の専門性・技能を有する外国人を受け入れ特定1号で最長5年、特定2号となると在留期限の上限がなくなり、家族帯同で永住できることになります。
いずれの制度を選択するかは各企業の判断ですが、全圧連としては制度に詳しい(一社)建設技能人材機構(JAC)と連携し、特定技能人材説明会などを通して有益な情報を発信し会員企業の要求に応えたいと考えています。
(2)主要燃料となるクリーンエネルギーについて
松本 2030年温室効果ガス排出46%減(2013年度比)を目指す日本政府の宣言を受け、当連合会としてもカーボンニュートラルを第7次構造改善計画に盛り込み展開してきました。今回の第8次構造改善計画ではさらに、具体的な取り組みとして、高分子天然ガス圧接工法及び水素エチレン混合ガス圧接工法の更なる普及展開に努めると共に、新たなクリーンエネルギーによるガス圧接工法の技術協力と普及展開を図っていきます。
(3)働き方改革=処遇改善について
松本 今後、10年以内に技能者は5割近く減少します。人材不足の背景には賃金の問題が内在しています。年々深刻化する人手不足、若年者の業界離れに歯止めを掛けるために処遇改善が喫緊の課題となっています。
2024年6月、建設業法が改正され労務費の基準を定め、発注者、元請け、下請け間で適切な労務費を確保した標準見積書による受発注契約を行い、現場で働く技能者へ適切な賃金を支払うことが求められます。さらには建設業界も4週8休の実現に向け、アナログからデジタル化の移行やロボット・自動化など生産性向上が求められています。
われわれ鉄筋継手業界もこうした流れに乗り遅れることなく、時代に対応した建設DXに取り組まなければなりません。
──次に、取り巻く課題を受け、経営戦略化ビジョンとして具体的な6つの対策を示しました。それぞれのポイントについて、お聞かせください。
(1)鉄筋継手業として業種独立について
松本 建設業許可業種区分では鉄筋工事業が鉄筋加工組立工事と鉄筋継手業に分類されています。これまでも長年、業種独立のチャレンジは行ってきましたが小業界であるが故、残念ながら実現できませんでした。しかし、昨今の鉄筋継手業界は省人化、省力化したPC工法や先組鉄筋への対応として、従来のガス圧接以外の溶接継手や機械式継手も施工できる技術力の向上や品質確保に取り組んでいます。
総合鉄筋接手業としての業種独立には溶接業界や機械式継手業界を取り込んだ組織拡大や顧客から信頼できる業界団体として認識されるまでのハードルは高いですが、これまで積み重ねてきた実績をもとにチャレンジして参ります。
(2)顧客満足の拡充=品質確保のための適正価格について
松本 顧客の要求に応えるために、われわれは鉄筋継手に関する技術・施工・品質・管理体制などエキスパートでなければなりません。鉄筋継手は建設物の構造に関わる重要な役割と品質責任を担っています。継手の品質確保には適正な工程と誠実な施工、後工程の検査が必要です。誠実な施工を担う技能者には卓越した技術力と経験が必要であり、日々の訓練も欠かせません。将来に希望が持てるキャリアアップの見える化と「適正価格」の確保を行い技能者の賃金アップに繋げていきたいと思っています。
(3)働き方改革を基盤とした処遇改善について
松本 働き方改革では技能者の処遇改善が最優先であり、賃金の安定を図る月給制度の導入や若年者に対する4週8休プラス有給休暇の取得が最低限の取組み目標だと思います。そのためには適正な受注価格が不可欠であり、建設業法改正に伴う第三次担い手3法による適正な労務費の確保により処遇改善をして参ります。
(4)担い手確保のための環境整備について
若者から選ばれる企業・業界へ変革しなければ技能継承も事業継承も出来ません。将来像(ライフプラン)が見える鉄筋継手業界を目指し、各単協による工業高校への出前講座や関係団体を通じて子供、親御さんへ建設業の魅力を発信するPR活動を積極的に行い、一人でも多くの若年者を雇用・育成・定着させて参ります。
(5)外国人の受入れ=外国人技術者の育成
建設業界で働く技能者は2024年4月現在、14万人を超え、その中には多くの技能実習生・特定技能外国人が日本で活躍をしています。先ほどもお話ししたように現在の技能実習制度は2027年に廃止され、人財の確保・育成を目的とした育成就労制度に移行されます。特定技能外国人制度では鉄筋継手(圧接継手・溶接継手)が特定技能業種として認められていますが、技能実習制度では鉄筋継手(圧接)は主たる業種として存在しません。2025年3月の閣議決定による育成就労制度で鉄筋継手(圧接)が受け入れ対象分野となり、それに対応する抜本的な見直しをした技能評価試験(初級・専門級)の整備が必要となります。われわれにとっては非常に難しい取り組みになりますが、2027年度からの制度移行に向け全力でチャレンジします。
(6)クリーンエネルギー=脱炭素に向けた取り組みについて
CO2排出削減に向けて10年、20年先を見据えカーボンオフセットアクションプログラムを策定し、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けて事業を展開していきます。先ほども触れました高分子天然ガスや水素・エチレン混合ガスを主要燃料に加え、ガス圧接の新エネルギーとして普及展開を図ります。
また、会員企業の取り組みとしては、出来るだけ再生可能エネルギー技術の活用を図り、さらにはエコドライブや事務所の省エネ化など事業活動におけるライフサイクルアセスメント全体での省エネルギーを徹底していきたいと考えており、全圧連としてもこうした活動をサポートしていきたいと考えております。
──最後に、組合員に向けてメッセージをお願いいたします。
松本 われわれ継手業界を取り巻く環境を的確に捉え、山積する課題へチャレンジしなければ衰退の一途です。全圧連の有志とともに力を合わせ、覚悟と決意でこの難局を乗り越え、新たな鉄筋継手業界を切り拓いていきましょう。
──本日は、ありがとうございました。
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■CO2排出量を大幅削減する天然ガス圧接工法~「エコスピードⓇ工法」が拡大中
令和7年7月10日
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エコウェル協会 事務局 〈所属〉東京ガスケミカル(株) スペシャリティガス部 マネージャー 石塚 尚生 |
1.はじめに
エコウェル協会は、東京ガスグループ企業である東京ガスケミカル㈱に事務局を置き、天然ガスを利用した圧接工法の開発や技術向上、普及等の活動を行っています。アセチレンガスを用いたガス圧接工法に替え、環境にやさしい天然ガスを用いた圧接工法の普及を目指し、2005年7月に設立され、現在は脱炭素化技術として注目されている「エコスピードⓇ工法」(高分子天然ガス圧接継手工法とも呼ぶ)の普及と施工体制支援、技術向上に注力しています。
2.「エコスピードⓇ工法」の開発経緯
同工法は、天然ガスの活用拡大を目的に開発が進められ、ガス圧接の1つとして取り扱いができることを国土交通省に確認、また、(公社)日本鉄筋継手協会の継手性能(A級)試験に合格しています。同工法は、特に接合不良のリスクを防ぐ表面の酸化防止が条件となる圧接について、ポリスチレンと鋼製リングで構成する特殊なPSリングを開発し、同リングを圧接前の鉄筋に挟み込み加熱することで課題解決させています。技術的な効果としては、鉄筋接合面の還元雰囲気の確保、残留空気パージと大気の侵入防止、還元ガスの拡散防止など多くのメリットがあります。
3.環境性、安全性、作業性、エコウェルガス(天然ガス)について
同工法による特徴と利点は、大きく環境性、安全性、作業性、品質安定性の4つが挙げられます。環境性は、CO2排出量がアセチレンに比べ、ガス採掘から燃焼までのLCA評価で約60%削減できます。安全性は逆火がほとんど発生しないことから危険性を大幅に低減しています。また、作業性、品質安定性はPSリングの使用により還元性ガスを発生させ、その還元性ガスで酸化を防止することで、接合不良を大幅に低減し、還元炎を使用しないため加熱中の火炎調整が不要となり、作業者の負担も軽減され作業性も向上します。
さらに、同工法で使用する「エコウェルガス(天然ガス)」は、天然ガスのライフサイクルで発生する温室効果ガスを国内外の様々なプロジェクトで削減・吸収したCO2で相殺するカーボンオフセットにより、実質CO2排出量ゼロとなるガスを使用することから、脱炭素化に大きく貢献します。
なお同会では、事業者の環境への取り組みが正当に評価されるよう、環境貢献の評価となるCO2排出量の算定・報告について、「ガス圧接工事CO2削減計画書」の作成をサポートしています。
4.今後の取り組み
同工法の施工実績は、2025年3月末現在で物件数5,811件、圧接箇所数約716万箇所に上ります。また、本工法を指定採用いただくデベロッパーや設計会社、ゼネコンなども急速に増えています。エコスピードⓇの技量資格者も年々増加し、430人を超え、アセチレン資格者を合わせた全体資格者割合で、20%弱まで伸びています。
環境負荷低減が強く求められる時代であり、今後もさらに同工法の普及を加速させてまいります。
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■CO2排出量の削減に貢献する水素・エチレン混合ガス「ハイドロカット60」の特徴
令和7年7月10日
岩谷瓦斯株式会社
1.はじめに
当社は皆様にご愛好頂いておりますアセチレンをはじめ、水素ガス、ヘリウムガス、炭酸ガスなどを製造しております。また、水素の国内シェアNO.1の岩谷産業のグループ会社です。水素を究極のクリーンエネルギーとして捉え、水素エネルギーの普及を進めているところであり、我々も水素ステーションにおける燃料電池自動車に充填作業なども担っております。大きな社会課題である脱炭素化は、いまや企業の責務となっており、力を入れております。そうした中で、大きな第一歩が今回紹介させていただく、水素・エチレン混合ガス「ハイドロカット60」(註1)です。
2.「ハイドロカット60」とは
「ハイドロカット60」は、アセチレンに代わるクリーンエネルギーである水素とエチレンを混合したガスです。水素60%、エチレン40%の混合比率による最適化のマッチングにより、CO2の排出量は原料採掘から生産、流通・消費までのLCA算定で、アセチレンと比較し約84%削減が可能であり、プロパンガスからは約65%削減可能です。さらに逆火の低減、輻射熱の低減による安全性の向上、作業環境の改善を実現します。また、各種鋼材の切断、加熱作業。ロウ付け、ガス圧接、ガス式溶射においても、従来のアセチレンと同様に使用でき、建設、造船、車両部品、解体、プラントメンテなど幅広い分野でご採用いただいております。2011年に市場投入され、今日まで全国でご愛好いただいております。(公社)日本鉄筋継手協会様にも水素・エチレン工法としてハイドロカット60が認定されております。
3.環境性、安全性、品質、作業性、経済性
主な特徴をもう少し詳しく紹介します。最も大きな特徴であるCO2排出量の削減については、ボンベ1本の場合のCO2排出量はアセチレン103.5㎏-CO2e/本に対し「ハイドロカット60」は16.5㎏-CO2e/本で削減量は87.0㎏-CO2e/本です。
また、安全性については、空気より軽いことからガス溜りができ難い、燃焼範囲が狭い、発火温度が高い、自己分解爆発がしない、逆火が起こりにくく、さらに、容器内では気体の状態であり、容器が倒れた場合でも、気体であるので急激な体積の膨張がありません。
作業性については、水素により輻射熱が低減することから作業者の熱中症対策、作業効率の向上が期待できます。また、ススが少なく、製品、作業場へのススの付着の軽減により、火口の清掃数、交換頻度が軽減し、さらに、ノロが取れやすく作業者の負担を軽減します。品質は切断面が綺麗であり、肩ダレの低減、焼けの低減、歪みの低減が見込まれます。経済性については、価格が安定しており相対的にパフォーマンスは良くなっています。
4.脱炭素は事業活動の絶対条件
カーボンニュートラル、脱炭素というのは一朝一夕に達成できるものではございません。アセチレンの需要というのは、まだまだ続くと思います。しかしながら、脱炭素を求める声というのは世界中で非常に高まっております。これまでのような脱炭素への努力義務から、絶対に取り組まなければならないマストの課題となっています。そうした中で、私どもは脱炭素化に貢献できる製品の開発に努めております。その代表的な製品の一つである「ハイドロカット60」を積極的にご愛好いただければと思っております。
註1:姉妹品「ハイドロカット90」はLPGに代わる切断用途に特化したもの。
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■令和7年 建設事業関係功労者等国土交通大臣表彰
嘉藤裕一氏が受賞
令和7年7月10日
令和7年度建設事業関係功労者等国土交通大臣表彰を嘉藤裕一氏(㈱嘉藤工業所)が受賞しました。嘉藤氏は多年鉄筋工事業に精励するとともに関係団体の役員として業界の発展に寄与しました。その功績が認められての受賞となりました。
受賞のことば
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このたび、令和7年度建設事業関係功労者等国土交通大臣表彰という栄誉ある賞を賜り、誠に光栄に存じます。
この36年間ガス圧接技術の習得と研鑽に励むなかで、諸先輩方や同業者の皆様に支えられ、今日に至りました。仕事の基礎すら分からなかった若き日から、ご指導を受け、経験を積み重ね、微力ながら業界の発展に寄与できたことを誇りに思っております。
現在、全圧連の理事相談役として、社会のニーズの変化から技能者の地位向上の必要性を強く実感しております。この度の受賞を新たな励みとし、業界の更なる発展に貢献できるよう、一層精進してまいります。
今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
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■青年部インドネシアで特定技能面接会を開催
令和7年7月10日
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昨今、建設業界での人手不足が加速するなか、圧接業界も同じく、高齢化によりベテランの引退や若手入職者が入らない等、作業員は明らかに減少しています。
そんな中、3年後・5年後と先を見据えると、圧接は人の手で行うもの、その人がいなければ会社は衰退してしまう。慢性的な人手不足のなか、圧接継手を継承していくために、全圧連青年部は5月8日〜10日インドネシアのジャカルタで特定技能面接会と初の海外研修を実施しました。
特定技能1号の在留期間は5年、会社を維持するには必要不可欠な人材です。本研修を通じ、特定技能採用の現状と彼らの熱意を感じることができました。